3月9日

今から福島に行きます。そのあと東京。

詩をすこし、書きました。福島で読む詩は、まだ書けていません。

 

  「3月3日は家族の日」

 

かつてハムレットは答えた
「元気だ、元気だ、元気だ」
オフィーリアに加減を問われたときに
このときのハムレットが病気であるにせよ、ないにせよ
オフィーリアがどうであるか
オフィーリアは水に流れ
ハムレットは機械になっており
元気だ、と繰り返すのはらくちん。
gのキイを打てば予測変換する
元気だ、
↓、エンターキイを三度
元気だ、元気だ、
さっぱりして
蛇口をひねっと
顔を洗うんば、肌がやっ、と声をあげぬる
水はいたい。
湯加減はどうだ、
父は尋ねるが馬鹿
水はひびわれ。



   3月3日は家族の日



おとうとは帽子を目深にかぶったように見ている空を
空を見ているようにビルを。雪吊の屋根を。
きれぎれの前髪から。
やっとこ父を、兄を背丈を抜き、とうに祖父も
だれより高いぢべたから
つまらなそうに箒をかけた昼間のあと
埃が天にかえるような時間に。
せなかは丸まっている。
ずいぶん太ったと笑いながら男どもは
たとえば焼香のじゅんばんがまわって
大きな背を、
小さく小さく丸め。
男どもはその背中をさするように知っている。
骨がすっくと撓っていること。
白い竹。
棒切れを振って歩いた山。




うちのオフィーリアは。
嫁に行ったのだが、愛想はなく。
名古屋で、金屏風の前で。
紅いドレスを着て。ぶさいくで。
わらっていて。
わらっているときは大抵こまっていて。
ハムレットは半分はげていて。
眼鏡がずっていて。

むかしオセロをしていて、姉に負けるたびにくやしくてしくしく泣いた。
こいつは手加減というものをしらないで、
わざと負ける器用さもなく。
つまりかわいらしくもなく。
そのくせこまっていっしょに泣いた。
このきちがいが、自分のことでは泣いたのをついに見たことがない。

金屏風の前でもやはり、呆けていたので。
げはげはと母と笑った。
新幹線に流されながら、レアティーズは泣いたか。
ポローニアスは漸く、ちいさく丸まっていたが?





むかしうちにはくろねこがいて
ちちがひろってきたやつで
ひざうえにほくろのようにちょんとして
かつてわたしもすわっていた
そのくろいあなぼこをみている
くろはとうぜんいまはしんで
やまにうわって
そのやまのへにちちは
未だすんでる
ははも




3月3日は家族の日。
風に目を細めては投げると
父は茶髪にしてやがつた。
このやろう。
元気だ。
元気だ、元気だ、元気だ。